Apple Watch発売と同時に購入し、自分のアプリもリリースし、1ユーザー / 開発者として3ヶ月間使ってきたレビューをまとめてみました。

Apple Watchの素晴らしいところ

メインフレーム→ワークステーション→パソコン→スマートフォン、とコンピューティングデバイスがどんどん小さくなり、いつでもどこでも、簡単に使えるようになるという流れの先にウェアラブルデバイスがあることは間違いないトレンドです。スマホを使えない・使いたくないシチュエーション確実に存在するし、「スマホ疲れ」は人間にとって解決すべき問題だと思います。

その問題を解決するためのひとつの解として、Apple Watchはその能力の一端を見せてくれています。

いままでスマホで、メッセージの通知→メッセージの確認→他のアプリの未読も気になりニュースやFacebookも見てしまう→気付いたら15分、みたいなことが無くなり、一気にメッセージの確認だけして、行動を打ち切って本来やるべきこと・やりたいことに時間を多く配分できるようになりました。通知機能はホントに便利です。

ランニング中の地図確認とか、テニスプレー中のスコア確認とか、いままでできなかったこともできるようになりました。

でも、これを母親や妹を含めた一般の人々に見せても、「ふーん」っていう反応なんですよね。ちょうどiPhoneが出る前に使ってたスマホ(W-Zero3とか)を見せた時みたいな反応。

何が足りないんだろう、ってずっと考えてたんですが、それはインタラクションという名の「魔法」じゃないかと思います。

Appleの魔法

Macではマウス操作、iPodではクリックホイール、iPhoneではマルチタッチ。Appleの歴代のヒットプロダクトには、必ず『インタラクションの革新』という名の魔法がかかっていました。(※インタラクション:機械やシステムとユーザーの間の関わり。)

いみじくもスティーブ・ジョブス自身がiPhoneの商品発表において、「数年に一度、全てを変えてしまう新製品が生まれる。Appleは幸いにも複数のそれらの機会に恵まれた。Macintoshでパソコンの世界を変え、iPodで音楽の世界を変えた。今日iPhoneで世界を変える。」と言って、その鍵となる要素として最初に上げたのは、静電タッチセンサーを活用したマルチタッチインターフェースでした。

もちろん、洗練されたOS、発達したソフトウェアやコンテンツのエコシステム、プロダクトデザインなど、インタラクション以外にも大切な要素は沢山ありますが、実はこれらの能力が高度化すると、どんどん機械を扱うのが難しくなるもの。高度で複雑な操作を、心地よく操作したいという一見すると相反する問題を一気に解決するのが、革新的なインタラクションなのです。

インタラクションがなぜそんな大事なのか?

コマンドラインを操るオタクしか扱えなかったコンピューターが、マウスの登場によって全ての人のものになりました。

スタイラスを操るオタクしか扱えなかったスマートフォンが、マルチタッチの登場によって、全ての人のものになりました。

インタラクションこそがGeekオタクとThe rest of the people(その他すべての人々をつなぐ架け橋であり、アップルが歴代のヒットプロダクトにかけてきた魔法の源泉でした。そして、スティーブ・ジョブスはその魔法のレシピへの嗅覚を人一倍強く持っていた人物だと思います。

Apple Watchに足りないインタラクションの革命

Apple Watchは基本的にタッチでほとんどの操作を行います。デバイスの横にはデジタルクラウンと呼ばれる竜頭がついていて、これを回すことで拡大縮小やスクロール動作をしたり、竜頭を長押しするとSiri (音声認識)が起動します。

つまり、Apple Watchには革新的なインタラクション存在せず、基本的にiPhoneのインタラクションパラダイムを踏襲してます。もちろんそれで問題なく操作ができるのであれば、よいのですが、実際の所ストレスを感じる場面が生じています。

まず、小さい画面への集中が必要である場面が多いことです。

Apple Watchを含めたウェアラブル商品の目的って、機械を使う煩わしさを軽減してより人間的な暮らしをすることだと思っているのですが、いまのインタラクションでは、それが完全に解決されていません。ホーム画面で、アプリを選ぶ↓この画面が象徴的です。

AppleWatchHome

一方、Siriは結構便利で、たとえばベッドに横になっているときに「1時間後に起こして」と呟いて、そのまま昼寝したりできたりします。こんなとき、「あーまさにこういうこと。こんな風に、ほかの動作もラクに操作したいよね」と感じたり。

Siriも万全ではなくて、難点は起動のためにデジタルクラウンの長押しが必要で両手がふさがってしまうんです。自転車に乗っているときにナビを起動したくても、両手を話さないと操作できなかったりします。

ウェアラブルデバイスの究極的なゴールは、空気ののようにそこに常に当たり前にあり、人間の自然な行動(座る、歩く、食べる、寝る)といった本来の行動を止めることなく・変えることなく自然に使うことができることだと思います。もっと言うと「機械を操る」という感覚から「自分の意思に追従する」という感覚への転換、とも言えるのではないでしょうか。

iPhone/iPad時代の画面を見るために下を見る、手で触って(両手を塞)オブジェクトを選択するといった動作から発想を転換し、上を向いて画面を凝視しなくてもストレスなく操作できる新しいインタラクションを野心的に模索していく必要があると感じました。

問題ばっかり挙げてても建設的でないので、ちょっとアイディアを考えてみました。

1. ジェスチャーの有効活用

たとえば、

1回シェイクしたらSiriが起動。2回シェイクしたら地図が起動。3回以降はユーザー設定が可能。そして、腕をくるっと上に回すと「OK」、下に回すと「キャンセル」がユニバーサルな操作として存在する。みたいなイメージ。

2. もっと機能を割り切ってシンプルなUIにする。

スマホにいろんなアプリを使ってる人でも、実はそのなかで本当に使っているアプリって1画面目にのってるアプリだけだったりしますよね。Watchで本当にやりたいことって、iPhoneの中でも特に気に入ったアプリを常に肌身離さず使いたい、みたいなニーズのはず。

と書いてきましたが、ほんとのところはそんな凡人のアイディアを圧倒的に凌駕するような、それこそ魔法のようなインタラクションを編み出して、もう一度ぼくたちをアッと言わせてほしい、というが本心ですかね。

まとめ

Apple Watchの目指す未来に共感し、毎日愛用しているからこそ、ちょっと真面目に問題提議してみました。

Appleには優秀なエンジニアやデザイナーが沢山いて、彼らが死ぬほど頑張って”Great products”を作っているのは高く評価しています。でも、そういうボトムアップ的なアプローチだけではだめで、彼らの努力を一気に昇華させるような魔法が合わさって初めて、新しい体験をThe rest of the people(全ての人々)に届けることができると思うのです。

ま、たぶん魔法をかけ忘れただけだと思うので、来年の登場が予想される第二世代のApple Watchに向けてさらなる発展を期待しましょう!